
作業動画から工程ごとの時間と熟練者の要点を抽出
製造業特化型AIを手がける株式会社エムニは、ユキグニファクトリー株式会社と共同で、マイタケのパック詰め工程を対象にした「動画分析AI」の実証実験を2026年9月から始めた。”匠の技”の伝承に向けた取り組みだ。
「動画分析AI」は、作業の正解をあらかじめ定義したり、作業の区切りを人の手で記録(アノテーション)したりしなくても使える。作業動画から工程ごとの作業時間を割り出し、熟練者の動きの要点を言葉にして示す。今回の実証では、言語化が難しい熟練者のカットの技をAIが具体的な言葉に置き換えて形式知化し、教育に活用できるかを検証する。製造業を対象に暗黙知の形式知化を進めてきたエムニのAI技術と、ユキグニファクトリーの現場で継承されてきた匠の技を組み合わせ、技能伝承の仕組みづくりを目指す。

品質を左右する「どこに刃を入れるか」の判断
ユキグニファクトリーは、1983年に株式会社雪国として創業した(2025年4月に現社名へ変更)。以来40年以上にわたってマイタケを生産している。天然のマイタケと同じように900gを超える大きな株を独自の技術で育て、「雪国まいたけ極」ブランドで販売している。
マイタケは、一つの株のなかでも部位によって味わいや食感が異なる。同社は大きな株をパック詰め工程でカットし、50gから500gまでの複数の商品に仕立てている。この工程は、店頭に並ぶマイタケの品質を左右する。熟練者は、部位ごとの味わいや食感を1パックにバランスよく収め、見栄えよく仕上げるために、独自のカット技法を使っている。株の形や茎の付き方は一つひとつ異なるため、どこに刃を入れるかを見極めるにはノウハウの技が求められる。
指導品質のばらつきと計測の手間が課題に
この見極め力を多くの作業者に伝えるには、作業を分析し、熟練者の動きの要点を具体的に示すことが欠かせない。ところが、手さばきのノウハウは言葉になりにくい。そのため、要点をどこまで伝えられるかは指導者の経験に左右される。熟練者が長い時間をかけて作業者を指導しなければならない点も負担になっている。
作業者の習熟度を測る方法には、一連の作業を複数の工程に分け、各工程の作業時間を計測するやり方がある。ただし、作業動画を工程に分解して秒数を計測するには人手がかかっていた。今回の実証実験は、指導品質のばらつきの改善と、指導負担・計測負担の軽減に向けて始まった。
2つの検証を並行して進める
作業者ごとの苦手な工程や習熟度を自動で可視化
1つ目の検証は、作業時間計測の自動化だ。「動画分析AI」は、人が作業の区切りを記録しなくても、AIが作業工程を分解して各工程の時間を計測する。マイタケのパック詰め作業の動画で、人の手による計測と同等の精度を確認できれば、作業時間の計測を自動化できる。自動化できれば、より多くの作業者を継続的に測定でき、習熟度合いの推移や指導の効果を数値で確かめられるようになる。熟練者との差が大きいボトルネックの工程を特定し、そこに絞って指導することも可能になる。
熟練者の”見極め力”をAIで形式知化
2つ目の検証は、見極め力の形式知化だ。事前検証では、熟練者のカットの仕方や特有の手の動かし方など、人の目では気づきにくいポイントをAIが作業動画から抽出し、言語化できることを確認している。本検証では、複数の熟練者の動画を分析しても安定した出力が得られるかどうかと、実際の指導の場面で教育資料として役立つかどうかを確かめる。暗黙知を言語化することで教育資料や手順書が充実するため、指導者による教え方のばらつきを抑えたり、熟練者の指導負担を軽くしたりする効果が期待されている。また、多様なバックグラウンドを持つ作業者にも熟練者のノウハウをわかりやすく伝えられるようになると見込まれている。
教育システムやフィジカルAIへの応用も視野に
今回の取り組みでは、匠の技を形式知として組織に蓄積し、新しく加わった作業者がそのノウハウをもとに技術を素早く身につけられる環境の実現を目指す。そのために、実証実験の成果を、作業者一人ひとりに合わせたフィードバックを届ける教育システムなどに応用していく。蓄積した匠の技は、人への教育だけでなく、ロボットと連携したフィジカルAIが熟練者の動作を学ぶための基盤としても活用する予定だ。
エムニは今回の実証実験を通じて、ユキグニファクトリーのマイタケの品質を支える技術の継承に寄与するとしている。また、この技術はパック詰めに限らず、溶接や組付け、目視検査など、人の見極めが品質を左右する工程に幅広く応用できるという。同社は生成AIをはじめとする最先端のAI技術を使い、ものづくりの現場に眠る暗黙知の形式知化と技能伝承への活用を進めることで、製造業の課題解決と業界全体のさらなる発展に貢献していく方針だ。
出典:株式会社エムニ